2008'07.19.Sat
SSと言うには、あまりにも短い代物。でも、独白とするには長い;
おまけにタイトルとズレてる……良い題が浮かばなかったっすよ orz
なぜ、よりによってその本を選ぶのか。
学徒の頃に手に入れた雑多な書物の間に紛れ込んだ表題の無い薄い背表紙は、多数の人の手を渡った歳月によって擦り切れ古ぼけ、到底、価値のある物には見えないのだが、どういうわけだか、ドクターは“それ”を満面の笑みで指差している。
「妙な物を選ぶものだな? こちらのガルテア連邦時代に編纂された歴史書には惹かれぬか?」
「興味はあるぞ。可能なら借り受けて詳細に分析したいところだが、今はこれが気になってな」
白い長手袋に包まれた指先が、ノックするように薄い革背表紙の端を軽く叩く。
私がうなづくと、ドクターはプレゼントを開く子供のような笑顔で、目的の書物を取り上げた。
元は金の顔料でうつくしい模様が描かれていたはずの表紙も、深く押し固められた細い溝の奥に、わずかばかりの金色のきらめきを残しているに過ぎない。
綴じ込まれた紙も、周辺部から茶けてもろくなっている。そっと表紙をめくったシドは声をあげた。
「ほほぅ! やはりインキュナブラ版か」
「その本を知っているのか?」
「おお、古きよき騎士道の教典とも言うべき書だからな、我が家にもツァイナー版ならあったのだが…」
一気に数ページをめくって開かれた箇所には、木版独特の無骨な線で描かれた一つの紋章があった。
剣に支えられた天秤。
「“権力に流されず、私利私欲にまどわされず、憐憫や恐怖に揺らぐことなく、天道大局を見すえ、混乱を収め地を平定す。それこそ法の番人なり”」
活字を追うこともなく、一文をそらんじたシドは、つと視線を私に向けた。
「“司法王”は公安総局に、この書を教本として配らなんだのか?」
「それはあまりに理想に傾きすぎている。“司法王”の時代にあっても浮世離れした内容だ。今の世では“おとぎ話”でしかない」
「“おとぎ話”…か」
パラパラとページを繰ったシドは本を閉じると、優しい手つきで裏表紙をさする。
「だが、あんたは大事にしとるようだな」
「そう見えるか?」
「ふむ、修理をせん辺りはよろしくないが、国立図書館へ寄贈するでもなく手元に残しているのは、愛着の表れではないのか?」
「寄贈したほうが書物にとっては良いはずだが」
「では、このままわしが預かっても良いかな?」
いつもの通り、私はまったく表情を変えていなかった。
だが一瞬の沈黙は、自他共に親友と認めるようになった老齢の友人には、どんな言葉よりも雄弁に内心を明かしてしまっていた。
「冗談だ。人の宝を取り上げたりはせんよ」
差し出された本を受け取った、その視界が、20年以上も昔の情景を呼び起こす。
私が物心ついてすぐに死去した祖父。ソリドール家の二代目皇帝であった彼が唯一私に残してくれた物。
老齢を理由に皇帝の座を退いた祖父は、晩年は郊外にある別邸で日々を過ごしていた。
頻繁におとずれたのか、年に数回に過ぎなかったのか、その頃の記憶はほとんど残っていない。ただ、祖父が「気に入ったのなら持って行くがよい」と古ぼけた本を差し出した光景だけが淡く焼きついていた。
「では、そのガルテア連邦時代に編纂された歴史書とやらを見せてもらえるかな?」
「承知した」
浮き立ったシドの声に物思いから引き戻された私は、薄い書物を書架へ戻そうとして……思いなおすと、元の場所ではなく普段、執務に使っている机上に置くと、シドが待ちかねている大判の古書へ手を伸ばした。
“ジャッジ”の概念って、なんとなーく判るんだけど、厳密にはイマイチ。
『FFTA』をプレイすればわかるかな?と期待してるんですけどね~。
正直、イヴァリースを舞台に、ジャッジを中心に据えたお話なんてのを作ってもらえたら嬉しい&面白そうなんだけど。
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