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「きおくのカケラ」分館 銭亀(ギルガメ)用

結局FF14は休止のまま。ヴェーネスに会いたいけど…

2024'11.03.Sun
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2008'05.28.Wed
自分の書く話がパターン化していると痛感するなぁ…。
あまり引き出しは多くないのです;
こういう感じの話ばかり書くから、反動でギャグに走りたくなるんだよ~~。
親子本、AllChara本ではギャグに徹するぞ~~!!(できるのか?)



 アルケイディアの皇帝は国民から選挙によって選出される。
 とうに形骸化していると言われてはいるが、自らの1票によって代表者を選び、必要とあれば権力の座から引き落とすこともできる“権利”が手中にある事実は、独立心の強いアルケイディア民に国民としての自負と満足を与えているのは事実だ。
 このような経緯もあって、皇帝に与えられた権力の大きさやアルケイディアの文明レベルから見ると意外なほど、皇帝の日常生活は質素で倹約的である。
 国家の象徴として、権力を誇示するための身だしなみや利用する飛空艇、近衛兵の人選や設備、迎賓施設などの建造物には大金がつぎ込まれていたが、目に見えない部分……食事や日用品、娯楽に関しては節制が徹底されていた。
 皇帝とその家族には、おのおの離宮が与えられていたが、皇帝の子息2人はほとんど離宮を利用せず皇帝宮の最上層にある居住区で暮らし、都市内の移動にも公共機関やジャッジマスターが利用する専用飛空艇パンデモニウムを使用し、皇族専用機を用いることは少ない。
 皇帝宮の皇族用居住区、その中で第3子ヴェインに与えられた1室には、日常で必要になる最低限の家具と広々とした机に書架があるだけで、建築家が用意した装飾と、見かねた家臣が持ち込んだ植物以外の飾りは、小ぶりな一対の剣以外なにも無かった。
 部屋の主は歳の離れた友と並んで、南へ向けてせり出したバルコニーから夕暮れの闇に追われて星屑のような光を散らし始めた帝都を見下ろしていた。

「ここからの眺めは胸が躍るな」
 歳の離れた友----軍事国家アルケイディアの命綱と言える軍事産業を支える技術者たち。その中でも機工士の最高位エトーリアの称号を持つ男であり、誰も成し遂げられなかった破魔石の合成に成功した比類なき科学者(ドクター)。ヴェインにとって最強の懐刀、ドクター・シド。
 一つ間違えれば己だけでなく、このアルケイディアを消滅させるだろう強大なミストを嬉々として操る“狂気の科学者”は、その通り名には似つかわしくない穏やかな微笑をうかべて都市へ目をやる。
「飛空艇に比べれば、ここなど地を這う高さだ。あなたならば、もっと広く世界を見渡せるだろう?」
 ヴェインの問いに、初老を過ぎ老齢と呼ぶべき年齢でありつつも不思議な若々しさをみなぎらせる男は、ため息とともに肩をすくめた。
「ここのところ定期船やレモラばかりでな。高空域を行くような船に乗る時は、仕事に追われて窓の外も見れんわ」
 バルコニーを彩る蔓草をかたどった手すりに近づいたエトーリアは、何かを取ろうとするかのように----否、何かを差し出すかのように利き手を帝都へ差し伸べる。
「自然の中に驚異は満ち、人もまた驚異を生み出す。わしはこの60年近く、なにをしておったのだろうな。まだまだ、汲めども尽きない謎が、美が、奇跡が世には満ちあふれている」
「奇跡の最も近くに立つあなたが不思議なことを言う」
「わしが操る技など、世界の----宇宙の御技に比べれば赤子も同然。息を切らせ汗をかきつつ上った峰で、眩暈すら覚えるほどの広大な世界を、さらなる峰の連なりを目の当たりにする。その繰り返しだわい」
 エトーリアの顔に浮かぶ笑みに、そこはかとない寂しさが混じる。
「人の身であるわしには限りがある。ようやっと見いだした式も技術も、わし一代で消え去る……継がせる相手も時間もない」
 シドの言葉が途切れる。沈黙の中、かける言葉をさがすヴェインよりも早く、虚空から染み出す声があった。
『それでいい。わたしはシドだから教えた』
 ゆらりとシドの前、バルコニーを越えた先の空間が揺らぎ、薄闇の空の中に暗い影が浮かび上がる。このイヴァリース世界を操ってきたオキューリアの一人、ヴェーネス。
 実体を持たない影は、手も足も省略した抽象化された人の姿を思わせる形になると、目の位置に金色の光を灯らせた。
『人間が扱うには危険な力を、託す相手は限られている。わたしはシドだから秘密を明け渡した。君が継がせる相手を見いだせないのであれば、それで良いのだ』
「……そうだな」
 エトーリアの顔から表情が消え去る。
 どんな場所でも、だれが相手であろうと、彼は常に不敵で自信に満ちあふれ、時に険しさが消えた折には驚くほどの優しさと華やかさで周囲を照らし出す。
 人々を惹きつける炎のようなまばゆさがゆらぐのは、彼が“家族”に思いをはせる時であることを、ヴェインはこの数年のつき合いで理解するようになっていた。
 戦渦に翻弄され親を子を失った者を目にするとシドは表情を消す。
 ヴェインもシドも彼らを悼むことはできない。助けの手を差し伸べることはあっても戦を止めることはできない。悲痛な訴えを聞き流し、あらたな戦火を広げる者に落とす涙は無いのだ。
 そしてもう一つ、シドには失った家族がある。望みを託し、その願いの重さ故に逃げ去った息子……。
 ヴェインは我知らずシドの肩に腕をまわしていた。
「シド、あなたの作品はアルケイディア中にあり、志を継ぐものがドラクロアにいる。誰よりわたしを忘れてくれるな」
 年齢のわりにはしっかりと厚みの残る肩を手の平で包みこみ優しくゆさぶると、返礼のようにドクターの手がヴェインの広い背を抱き軽く叩く。
「まったくだ。なにをわしは弱音を吐いとるのだろうな? いやはや歳を取ると気が弱くなっていかんわい」
 もう大丈夫、と笑顔で訴えて離れようとする肩を捕らえたままヴェインはたずねる。
「必要な物はあるか? 人材は足りているのだろうか?」
「ははは、訊いてよいのか? アトモスのごとく国庫を吸いつくしてくれるぞ」
 伝承の中に現れる万物を飲み込み押しつぶす幻獣の名を出して笑い飛ばしたシドは、ふと声を落として続ける。
「わしをあまり甘やかさんでくれ、わしはあんたを利用しとる男だぞ」
 ふたたびエトーリアは青年の腕の中から逃れようとするが、ヴェインの手はしっかりと肩を包み込んだままだ。青年はかすかにシドへ身をかがめて訴えた。
「私自身、多くを利用してきた。たまには利用されるのも悪くはない。それがわたしが行くべき道を指し示す地図となり、羅針盤となるのであれば、拒む必要もない。わたしはあなたの力を利用して望みを形にした」
「無謀な道を歩ませておるな」
「かまわんよ。いずれ辿るつもりだった道だ。道連れがいて嬉しい」
「酔狂な男だ」
「わかって近づいたのではないのか?」
「そうであったな。わしはあんたを利用し、あんたはわしを利用し、そして……」
 シドは視線を空中にたゆたう影へ向ける。
『わたしは君たちを利用する。愛しき人間(ヒュム)たちよ、見えぬ頚木(くびき)を打ち払うのだ』
 ゆらりと空中に溶けて消えたヴェーネスを見送ったシドの顔には、いつもの力強さが蘇っている。ヴェインはそっと肩に置いた手を外した。


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