2009'03.11.Wed
なんとなーくダラダラと書きなぐり。
ヤマなし、オチなし、イミ……はちょっとだけあるかも。
(上の単語から連想されるだろうアッチの要素はなし。
私ゃあの世界は踏み込めないのだょ;)
ウチの駄文にはめずらしく、ラーサー様視点で兄上のコト。
ヤマなし、オチなし、イミ……はちょっとだけあるかも。
(上の単語から連想されるだろうアッチの要素はなし。
私ゃあの世界は踏み込めないのだょ;)
ウチの駄文にはめずらしく、ラーサー様視点で兄上のコト。
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「止めてください、兄上ッ!」
喉が裂けんばかりに叫んでいるはずなのに、声はかすれ、風音ばかりがもれ出る。
ざらざらと耳障りな音をたて、穂を揺らすにごった金色の茂みの中へ、たくましい後姿が踏み入っていく。
止めねば。止めなくては。
豊かに実をむすび照りかがやく麦の穂を守るために? それとも兄の身を守るために?
どちらともつかないまま、ただ焼けつくような焦りに駆られて幼い皇帝は駆け出そうとするが、足も腕も、体のすべてが泥沼に陥ったかのように重く、ほんの数歩先の背に追いすがることすらできない。
「兄上ーッ!」
声が届いたのだろうか歩みを止めた人影は、しかし振り返ることはなく、雑々と唸りをあげる穂の波へと両腕を差し伸べる。
まるで戦場へおもむく兵たちを鼓舞するために、いくども繰り返した式典をほうふつとさせる自信に満ちたその姿に、ラーサーは我知らず動きを止め、紡ぎだされる言葉を待ち構えていた。
だが、聞こえたのは兄の声ではなく、何かが引きちぎられるビチビチと湿った音と、耳を打つ豪雨と呪詛のわめき声。
兄の両手は、うねる麦の柄を鷲づかみ、力任せにひきちぎっていた。
豪雨の雨だれと聞こえたものは、逃れようと身をよじる麦たちの柄や穂がぶつかり合うざわめき。
丸々と太った穂の粒は虫のようにうごめきながら、様々な声音で制止と罵倒のののしり声を放ち、裂けて折れ曲がった茎からは鮮血の赤がほとばしる。
おぉ、おぉ、とうめきをあげつつ麦が身をくねらせ、光を照り返す葉先が刃となると、竜をかたどった鎧に切りかかり、幾太刀かは皮膚をとらえて引き裂いていたが、兄は払いのけようとすらせず淡々と金の穂をつかんでむしり続ける。
麦の穂であるはずなのに、ねじられた茎が発する音は、骨と筋がねじ折られる硬さと湿り気を含んだ音。
流れ出る液は粘った赤い水溜りを形づくり、異臭を放ちながら黒い軍靴を浸している。
「兄上、なにをなさっているのです? それは……何なのですかッ?!」
先ほどまで豊穣の印として目の前で揺らいでいた黄金の麦畑は、おぞましい魔物の本性をさらして身悶えていた。
「危険です、戻ってくださいッ!」
今すぐにでも走り寄り引き戻したいのに、どれだけもがこうともラーサーの手足は宙を掻くばかりで、どうにか半歩を踏み出した頃には、兄の背はさらに悪意のうねりのただ中へと飲み込まれていた。
兄は白い手袋を朱に染めつつ、悲鳴と怒号を放つ麦穂を屠り進んでいる。
彼の足下に広がった血溜まりは、紫とも緑ともつかない暗色ににごり、不吉な瘴気をただよわせている。
毒?
不吉な予感にラーサーの背筋が凍る。
兄は……ヴェイン・ソリドールは実の兄すら断罪した冷血漢であり、人の命を軽んじ、駒として使い捨てることをためらわない悪魔のような男だと囁かれている。
もっとも近くにいる、弟である自分の目から見ても、否定できない言動は多々あった。
だが、それでも優しい兄であった。
時に父のように、時に友のように、己を守り導いてくれた存在。
ただ一人の兄なのだ。
「兄上、お戻りください! お願いです……お願いだからッ!!」
つま先は湿った地面を蹴っているのに、この体はどうして前へ進まないのだろう? 兄の背は遠く、荒れ狂う穂の波にいましも呑まれそうだ。
焦燥感に沸き立つ血潮と、かすむ視界、わんわんと鳴り響く金属質な麦穂のざわめきと、止むことのない呪詛のわめきに、意識が飲まれ遠ざかりそうになる。
その中で、別世界から降りそそぐように穏やかな兄の声が響いた。
「毒麦の種を撒いたのが、誰であるのかは判らない。
元はただの麦だったものが、地や空の毒を吸って邪心を抱いただけかもしれない。
だが、蔓延(はびこ)ってしまったこれは、誰かが刈り取らねばならないのだ。
ラーサー、この地に恵みを。
もし、再び毒麦がはびこるならば、ソリドールの誇りとともに…」
「兄上ッ!?」
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「止めてください、兄上ッ!」
喉が裂けんばかりに叫んでいるはずなのに、声はかすれ、風音ばかりがもれ出る。
ざらざらと耳障りな音をたて、穂を揺らすにごった金色の茂みの中へ、たくましい後姿が踏み入っていく。
止めねば。止めなくては。
豊かに実をむすび照りかがやく麦の穂を守るために? それとも兄の身を守るために?
どちらともつかないまま、ただ焼けつくような焦りに駆られて幼い皇帝は駆け出そうとするが、足も腕も、体のすべてが泥沼に陥ったかのように重く、ほんの数歩先の背に追いすがることすらできない。
「兄上ーッ!」
声が届いたのだろうか歩みを止めた人影は、しかし振り返ることはなく、雑々と唸りをあげる穂の波へと両腕を差し伸べる。
まるで戦場へおもむく兵たちを鼓舞するために、いくども繰り返した式典をほうふつとさせる自信に満ちたその姿に、ラーサーは我知らず動きを止め、紡ぎだされる言葉を待ち構えていた。
だが、聞こえたのは兄の声ではなく、何かが引きちぎられるビチビチと湿った音と、耳を打つ豪雨と呪詛のわめき声。
兄の両手は、うねる麦の柄を鷲づかみ、力任せにひきちぎっていた。
豪雨の雨だれと聞こえたものは、逃れようと身をよじる麦たちの柄や穂がぶつかり合うざわめき。
丸々と太った穂の粒は虫のようにうごめきながら、様々な声音で制止と罵倒のののしり声を放ち、裂けて折れ曲がった茎からは鮮血の赤がほとばしる。
おぉ、おぉ、とうめきをあげつつ麦が身をくねらせ、光を照り返す葉先が刃となると、竜をかたどった鎧に切りかかり、幾太刀かは皮膚をとらえて引き裂いていたが、兄は払いのけようとすらせず淡々と金の穂をつかんでむしり続ける。
麦の穂であるはずなのに、ねじられた茎が発する音は、骨と筋がねじ折られる硬さと湿り気を含んだ音。
流れ出る液は粘った赤い水溜りを形づくり、異臭を放ちながら黒い軍靴を浸している。
「兄上、なにをなさっているのです? それは……何なのですかッ?!」
先ほどまで豊穣の印として目の前で揺らいでいた黄金の麦畑は、おぞましい魔物の本性をさらして身悶えていた。
「危険です、戻ってくださいッ!」
今すぐにでも走り寄り引き戻したいのに、どれだけもがこうともラーサーの手足は宙を掻くばかりで、どうにか半歩を踏み出した頃には、兄の背はさらに悪意のうねりのただ中へと飲み込まれていた。
兄は白い手袋を朱に染めつつ、悲鳴と怒号を放つ麦穂を屠り進んでいる。
彼の足下に広がった血溜まりは、紫とも緑ともつかない暗色ににごり、不吉な瘴気をただよわせている。
毒?
不吉な予感にラーサーの背筋が凍る。
兄は……ヴェイン・ソリドールは実の兄すら断罪した冷血漢であり、人の命を軽んじ、駒として使い捨てることをためらわない悪魔のような男だと囁かれている。
もっとも近くにいる、弟である自分の目から見ても、否定できない言動は多々あった。
だが、それでも優しい兄であった。
時に父のように、時に友のように、己を守り導いてくれた存在。
ただ一人の兄なのだ。
「兄上、お戻りください! お願いです……お願いだからッ!!」
つま先は湿った地面を蹴っているのに、この体はどうして前へ進まないのだろう? 兄の背は遠く、荒れ狂う穂の波にいましも呑まれそうだ。
焦燥感に沸き立つ血潮と、かすむ視界、わんわんと鳴り響く金属質な麦穂のざわめきと、止むことのない呪詛のわめきに、意識が飲まれ遠ざかりそうになる。
その中で、別世界から降りそそぐように穏やかな兄の声が響いた。
「毒麦の種を撒いたのが、誰であるのかは判らない。
元はただの麦だったものが、地や空の毒を吸って邪心を抱いただけかもしれない。
だが、蔓延(はびこ)ってしまったこれは、誰かが刈り取らねばならないのだ。
ラーサー、この地に恵みを。
もし、再び毒麦がはびこるならば、ソリドールの誇りとともに…」
「兄上ッ!?」
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